栽培技術、特に農業資材に関するページです。
酢
最近の農業生産では、多くの人が減農薬、無農薬を目指して様々な取り組みをしています。
そのために、様々な資材が提案されています。
例えば、微生物資材ではEM菌やえひめAIなどが多いですね。
個別の病害虫対策としても、例えばナメクジを誘引駆除するためにビールを使うこと、
あるいは、昆虫の気門を塞ぎ、窒息死させることを狙いとして牛乳や洗剤なども散布されること
など、いろいろとあります。
しかし、実はこれらは農薬取締法上は、ほとんど特定農薬として登録されていません。
理由は、効果疑問があるとか、使用の報告がないとか様々です。
こういった資材とは別に、特定農薬として認定されている数少ない自然農薬の一つが酢です。
言い方を変えれば、酢は農薬として効くというお墨付きを国からもらっている資材ということになります。
このときに薬効が認められたのは、稲の種モミの殺菌などです。
また、他に有名なところでは、木村式自然栽培等でも使っているようです。
食酢の殺菌効果のメカニズムとしては、pHを下げることと、酢酸自体の殺菌効果があげられます。
散布は、水で数10~数100倍に希釈して用いることが多いようです。
食品ついては、殺菌の効果はよく調べられています。
それによると、O157のような耐性の強い菌に対しても効果が確認されています。
また、夏場の弁当のご飯やおかずにも、酸っぱさが感じられないくらいごくわずかに混ぜるらしいです。
食酢そのものでも防腐効果は高いですが、さらに塩と混ぜることにより殺菌効果は高まります。
穀物酢や果実酢など、自然の食べ物を原料として作った酢は、酢酸の他にも色んな成分を含みます。
主成分の酢酸は5%弱です。
これ以外に、糖分も5%くらい含みます。
あとは、灰分、ビタミン類、アルコール等が微量に含まれています。
ところで、農業用資材として、木酢液や竹酢液がありますね。
これらは、水分を除けば、主成分は酢酸で3%くらい含まれています。
とすれば、これも同じように効果があると思いきや、農薬取締法では特定農薬の指定からは外されています。
この理由としては、
1)必ずしも効果がない
2)成分が一定でなく、製法により大きく異なる
3)有害成分が含まれる
といったところが挙げられたようです。
同じように酢酸を主成分にしていても、食酢と木酢液で効果が分かれるのはどういうことなのでしょう?
成分が不均一なため、たまたま酢酸濃度が低い資材を使ったら効果がなかった、ということかもしれませんが、不思議ですね。
以上は殺菌効果について示しましたが、これ以外にも多様な効果が期待されます。
まずは、人間が摂取した場合の効果について。
人間に対する、酢の機能的効果は実に多様です。
食後の血糖上昇抑制や血圧の低下、脂肪の燃焼など生活習慣病になりにくくなる働きがあります。
また、腸壁からのカルシウムの取り込みを促進して、骨の形成を促進する効果があり、これにより骨粗鬆症を予防すると言われています。
さらに、風邪やインフルエンザの予防効果も、検証されつつあるそうです。
これらに対して、酢の摂取過剰の害は、ほとんど問題にならないようです。
マウスなどで大量に摂取させると、胃の粘膜が損傷を受けるという報告はあります。
しかし、これは人間が現実的に摂取できる量よりもはるかに多量に投入した場合のようです。
他には、酢に限らず酸性の食品はどれもそうですが、口中で歯のエナメル質を溶かす効果もあります。
これは、通常の食事ではさほど気にしなくてもいいようですが、うがい薬など口の中で長時間滞留させことは避けたほうが無難のようです。
人間に対して、上記のような多くの効果がある通り、植物にとっても色んな改善効果が期待されます。
まず一つは、上記とも関連しますが、酢酸がエネルギー代謝を促進する効果です。
植物は、呼吸により生体内の糖分を分解してエネルギーを作り出し、これにより色んな生命活動を行います。
酢酸は、このエネルギーを得るTCA回路という仕組みをスムーズに動かす働きがあります。
これにより光合成とか、窒素分の吸収、アミノ酸の合成といった色んな活動が活発に起こります。
また、通常の食酢は酢酸の他にも各種有機酸やミネラル分が含まれているので、これらを植物が利用して生育が促進される効果も期待されます。
このように酢が有効であるのなら、酢を作る酢酸菌を自分の圃場で積極的に活動させたい、と思うのは人情ですね。
では、酢酸菌はどんな特徴があるのか、よく使われる乳酸菌との比較で考えてみましょう。
まず、酢酸菌の生成物は酢酸、乳酸菌の生成物は乳酸です。
どちらも酸性であり、酸により他の菌の活動を抑えることができます。
ただし、殺菌効果は、乳酸よりも酢酸のほうが高いです。
乳酸は水に溶けるとで多くが乳酸イオンと水素イオンに分かれ、このうちの水素イオンが殺菌効果を持ちます。
酢酸も同様に、酢酸イオンと水素イオンに分かれますが、電離度が低いために酢酸のまま分解しないものものも多いです。
この分解していない酢酸が、菌の体内に取り込まれて、そこで分解して酢酸イオンと水素イオンに分かれることにより、この水素イオンが殺菌効果を持ちます。
これが、酢酸のほうが殺菌効果が高い理由です。
酢酸菌は、アルコールを酢酸に変える時にエネルギーを得ます。
最初に、酵母菌が果実等の糖を使ってアルコール発酵し、これを酢酸菌が利用します。
酵母菌のアルコール発酵は嫌気発酵で、酢酸発酵は好気発酵です。
従って、人工的に条件を整えてやらないと酢酸菌を積極的に活動させるのは難しそうです。
EM菌のように色んな菌を複合的に投入することも考えられますが、上述のとおり酢酸菌は殺菌効果が高いことが逆にネックになりそうです。
これが乳酸菌であれば、糖から乳酸菌が直接乳酸発酵するので、比較的利用しやすいかもしれません。
結論として、圃場で植物栽培に利用するには、酢酸菌は難しそうですね。
参考にした本
小泉武夫編 発酵食品学 講談社
酢酸菌研究会編 酢の機能と科学 朝倉書店
池田武 吉田陽介 養田武郎 民間農法シリーズ玄米黒酢農法 農文協
尿素
私は窒素肥料として、尿素を多用しています。
色んな利用法があるので、とても便利です。
そこで今回、これについて紹介したいと思います。
尿素のメリットは、まずは何と言っても低価格なことです。
尿素20kgを4000円とすると、窒素1kgに直すと435円です。
ちなみに硫安だと20kgを3000円として、窒素1kgが714円
ナタネ油かすだと20kgを2500円、窒素濃度を5%として、窒素1kgが2500円。
ダントツに安いことがわかります。
また、肥料中の窒素含有量が多いのも特徴です。
つまり、施肥する量が少なくて済みます。
軽くてうれしいです。
1kgの窒素を圃場に投入したい時には尿素は2.2kgまけばよいです。
これが硫安だと4.8kg、ナタネ油かすだと20kg撒かなければなりません。
窒素以外の余計なものが入っていないことも特徴です。
尿素は化学式で書くとCO(NH2)2、窒素以外は炭素、酸素、水素のみです。
過剰に施したときに気にしなければならないのは窒素関連のみです。
(例えば、アンモニアガスが発生するとか)
これに対して、硫安ですと窒素の他に硫黄が入っています。
従って、過剰な場合の害については窒素の他硫黄についても考慮しなければなりません。
硫黄は、植物にとってタンパク質やビタミンを作るのに必要な元素ですが、過剰ですと硫化水素の発生により根にダメージが与えられる可能性もあります。
ナタネ油かすは色んな有機物とか微量成分が入っていて、尿素とは別の意味で便利ではありますが、窒素のみ補給したい時には使えません。
それに、原料のナタネは遺伝子組換え作物由来の可能性が大きいです。
有機無農薬指向の方で、尿素のような化学肥料の使用に抵抗のある方は、油かすについても使用をためらわれるかもしれません。
話は戻って、尿素は中性肥料でもあります。
硫安は酸性肥料、油かすは概ね中性のようです。
日本では酸性土壌が多いので、酸性にする肥料は少し注意する必要がありますね。
なお、尿素そのものは中性ですが、土壌中で分解して炭酸アンモニウムに変化し、弱アルカリ性となります。
ちなみに、上記の尿素の炭酸アンモニウムへの変化は、夏場なら4〜5日、冬場なら1〜2週間くらいです。
化学肥料の中ではやや緩効性ということになります。
尿素は水に溶けやすいという性質もあります。
逆に吸湿しやすいので、固形分として保存しておくと固まってしまいます。
そのため、顆粒状にして固まりにくくしています。
また、水に溶けやすいことを利用して、液肥として使うことがよく行われます。
私は、尿素の飽和溶液を作って、それを薄めて使っています。
尿素の溶解量は、20℃ですと、水100ccに対して108gくらいになります。
これを250倍くらいに薄めて使っています。
飽和溶液くらい濃くすると、少々時間が経っても、腐ることがないので安心です。
濃度が高すぎて、微生物が繁殖できませんので。
なお、尿素を水に溶かすと吸熱により温度が下がります。
温度が下がると溶け残ってしまいますが、時間が経って室温に戻ると残りも溶けます。
尿素を液肥として使う際には、葉面散布するのがよいです。
葉から窒素を吸わせるので、根が弱ったとき等に便利です。
葉面散布で尿素が特に優れているのは、浸透性がいいこと。
多くの薬剤は、そのまま撒いても葉の表面のクチクラ層という層ではじかれてしまいますが、尿素水溶液ではスムーズに浸透してくれます。
尿素が、クチクラ層の膜の結合を緩くして、隙間を増やすために浸透しやすくなるとされています。
ちなみに、尿素と一緒に別の成分を入れても、その成分も浸透しやすくなると言われています。
私は、えひめAIと尿素を混ぜて使っています。
このときは、入れる順番に気をつけています。
高濃度の尿素とえひめAIを直に混ぜると、微生物が死んでしまう可能性があるため、えひめAIと水を混ぜて薄めた後に最後に尿素を入れています。
肥料以外の使い方も色々あります。
例えば、農薬に混ぜて使われたりします。
上述のとおり、浸透性がよくなるので農薬が効き易くなります。
あと、高濃度の尿素をまくと、除草効果も期待できます。
これは、尿素をまくことにより、植物が浸透圧の効果で水を吸えなくなるためです。
ある篤農家の方は、作物を植える前に一旦散水して雑草の芽出しをし、その後高濃度の尿素を撒いて枯らす、といった高等テクニックを持っているようです。
堆肥やボカシ肥等で、窒素源を入れると発酵が早まりますが、そのために尿素を用いることもできます。
こんな風に色んな使い方のできる便利な尿素、おすすめです。
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