タカナぬか漬け 果物や野菜など、取れたての新鮮な食べ物を生で食べるのはなんとも美味しいですが、漬け物にしたり乾燥させたりと加工した食品もいいですね。

漬け物とか保管の過程で、食物の中で起こっている変化が熟成です。

適度な温度で時間を置くことにより、風味や香り、保存性などの新たな機能が得られます。

一方で適度な温度で時間を置くと、品質の低下が生じるものもあります。

腐敗とか、食感の低下とか。

こういったものは、ここでは変質と呼ぶことにします。

熟成と変質の本質的な違いはありません。

単に、人間の役に立つ変化が熟成で、害になる変化が変質というだけです。

熟成の起こる原因

熟成という現象には、具体的には様々な原因があります。

一つは、微生物による変化。

酵母菌や乳酸菌、麹菌などの有用微生物による発酵現象です。

二つめは、酵素による変化。

微生物による変化も酵素による変化の一種です。

ただし、現在では人工的に酵素を作ったり、抽出した酵素を工業的に利用したりもしていますので、
別に分類しておきます。

三つ目は化学反応による変化。

酵素による変化も、化学反応の一種です。

それ以外の酸化とか分解、合成をまとめてここに分類しています。

最後に物理反応による変化

匂いの成分が揮発したり、酵素反応などで生成した成分が混ざるとかです。

熟成は、これらのうちの一つの要因だけで起こるわけでなく、色んな変化が複合的に起こった結果として得られるものです。

最も身近な熟成の例として、味噌について見てみます。み味噌出来上がり

味噌は、麹と煮潰した豆と塩を混ぜて保管します。

保管中に熟成が起こります。

まず最初に、麹に含まれる酵素の反応により、デンプンが分解されてブドウ糖などの糖が生成します。

次に、このブドウ糖により、各種の酵母菌が繁殖します。

この酵母菌がタンパク質を分解、アミノ酸を生成します。

ちなみにダイズには、アレルギー源となるタンパク質も含まれていますが、これも熟成中に分解してほぼなくなります。

また、脂質も同時に分解します。

これにより、アルコールや脂肪酸エステルなどの香り成分が生成されます。

また、分解によりツブツブが崩れてベースト状になります。

生成したグルタミン酸により塩なれがして、塩辛さがまろやかに変化します。

こういった複雑な過程が、単に原料を混ぜて保管しているだけで起きています。

自然の玄妙な仕組みには、ただただ驚きを感じるばかりです。

植物の熟成現象

加工品はさておいて、野菜や果物では熟成の出る幕がないかというとそういう訳でもありません。

実が、木になっている時点で熟成が起こっています。

固かった実が柔らかくなったり、酸味や苦みがへって甘味が増したり。

これらは、植物ホルモンであるエチレンの働きが関与することがわかっています。

また、収穫後の追熟という過程もあります。

トマトやメロンなどの果菜類に、追熟を利用するものが数多くあります。

これらとは逆に、追熟させてはいけないものもあります。

スイートコーンやエダマメ、キュウリなど、若い実を食べる野菜は、追熟させてはいけません。

熟させるということは、老化させるのと紙一重です。

鮮度鮮度 カブ

時間を置くと、熟成せずに変質して品質が劣化することもありますね。

こういうものは、時間をおかないで新鮮なまま調理する方がよい、となります。

こちらは、鮮度が重要となります。

鮮度が気になる食べ物としては、野菜と魚があるかと思います。

このうち、魚の鮮度については、K値という指標があります。

魚が死ぬと、細胞内のエネルギーのもとととなるATP(アデノシン三リン酸)という物質が時間とともに分解します。

そして、代わりに生成するのがイノシン、ヒポキサンチンといった物質です。

K値というのは、これらが蓄積する量を示します。

これに対して、植物は収穫後も死んでいるわけではありません。

呼吸、蒸散により水分が抜けたり、植物ホルモンであるエチレンを生成したり、生長もします。

こうした生命活動のため、呼吸して炭水化物、脂肪、たんぱく質は分解され、エネルギーが作られます。

つまり、持っている栄養分が低下することになります。

では鮮度を保つために、完全に呼吸を止めさせればよいかというと、これは細胞を殺すことになり、腐敗したり、栄養分が溶けだして失われやすくなってしまいます。

従って、死なない程度に生命活動を低下させることが必要です。

そして、そのためには保管する環境に注意する必要があります。

具体的には、温度、湿度、酸素濃度、炭酸ガス濃度、エチレン濃度などを調整します。

野菜の鮮度を保つには

これらの環境の中で、最も重要なのが温度です。

低温で貯蔵することにより、呼吸が低下します。

ただし、低温といっても低ければ低いほどよい、という訳でなく、野菜の種類によって適正値があります。

葉物野菜は0℃付近が最も良いです。

高くなると呼吸が増え、低すぎると、凍結による傷害を受けます。

果菜は10℃前後が良い場合が多いです。

葉物野菜よりも、低温障害が出る温度が高いためです。

温度の他、湿度も重要です。

乾燥を防ぐため、湿度は高い方が良いです。

従って、市販品では、パック包装して水分ロスを防ぐことがよく行われていますね。

ただし、タマネギやニンニクなど、湿度が高いと腐りやすい野菜もあります。

従ってこれらは、軒下など風通しのよい場所で保管する必要があります。

また、呼吸を抑えるために、酸素は低く二酸化炭素は高い方がよいです。

これは、分かりやすいですね。

それから、エチレンというのは、前回も少し触れた通り、老化を進める植物ホルモンです。

呼吸を抑えることにより、エチレンの発生も抑えられるので、より鮮度が保てます。

この他、空気圧が高いとなぜかエチレンが発生しにくくなるという現象があるので、保存の時に空気圧を高くすることなども行われています。

なお、当然ながら、保管の際にはキズができるだけつけないようにする必要があります。

傷口から水分が抜けたり、エチレンが発生したり、病害の原因となります。

以上、鮮度を保つためには、色々と注意することが沢山あるのですね。

鮮度のいい人?熟成された味のある人?

熟成が老化と紙一重であるように、鮮度は若さと紙一重。

人間の場合はどうでしょう?

アイドル歌手など、若さ自体に価値があるともいえますね。

しかし、彼らを真空パックしたり、低温保存したりして鮮度を保つ訳にもいきません。

時間とともに身も心も変化していきます。

ひと年取ったら熟成されて、人当たりが柔らかくなってうま味がますか、

それとも変質して他の人の害になるか

これは、その人の心がけ次第。

あるいは、熟成が不十分で、追熟させなければならない人もいるかも。

それはそれで、いつまでも若々しいということで望ましいのかもしれませんが。

<参考にした本>

石谷孝佑編 食品と熟成 光琳選書

農文協 野菜園芸大百科 21 品質、鮮度保持 農文協

ノスティモ おいしさの科学シリーズ vol2 熟成 エヌ・ティー・エス

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