展着剤

ほとんどの人が、病害虫や雑草の防除のために、何らかの農薬(化学農薬、自然農薬によらず)を散布していることと思います。

この際には、植物の茎葉にしっかりと散布することが重要です。

せっかく葉っぱに散布した薬剤が、そのまま流れて土に流れてしまうと効果ありません。

それを防ぐのが、今回のテーマである展着剤です。

展着剤の働きは、以下の通りです。

・散布した時に液が流れ落ちないように、葉っぱにくっつかせる

・水滴になって溜まって部分的に薬が聞くのを防ぎ、茎葉全面にくっつかせる

・はじいてしまわないように、葉面を濡れやすくする

・粉剤などを水に溶かした時、沈殿するのを防ぎ、粉を液中で分散させる、乳剤の場合は既にそうなっているのでそれを害さない

これらの効果は、薬液を葉面になじみやすくすることにより得られます。

メカニズム

展着剤がこのような働きを持つメカニズムについてですが、その前に、なぜ葉と液がなじみやすいかったりなじみにくかったりするか、考えてみましょう。

これは、表面張力の働きによります。

まずは水滴を考えてみます。

水滴(でも他のものでも)を構成する個々の水の粒子はお互いに引きつけあっています。

液体の中であれば、粒子のまわりは全部粒子に囲まれていますが、液体の表面では液の粒子が半分で残りの半分は空気ということになります。

そのため、引き付け合う力のバランスが崩れて液は液同士で集まろうとします。

その結果、水滴は球状になります。

次に、葉っぱが濡れた時の水と葉っぱの境界を考えてみます。

上記の水滴の話と同様、葉っぱの粒子は葉っぱの粒子、水の粒子は水の粒子同士、集まろうとしていますが、葉っぱと水滴の性質によって両者の引き付け合う力が変わります。水滴

液と個体との間の性質が、似かよったものであれば引き付け合う力が同じようにくらいになるので、境界部分で集まろうとする力が小さくなります。

例えば、油と合成樹脂とかだと、よくなじみます。

逆に、全然違うものであれば、集まろうとする力が強くなり、水滴は球状に丸まります。

例えば油紙の上の水のように、全然違うものでできていれば、水ははじきやすいて丸くなります。

このような、はじきやすいのものを、なじんで濡れやすくするのが展着剤です。

展着剤は界面活性剤

展着剤の主成分は、界面活性剤です。

界面活性剤としては、代表例に石鹸や洗剤があります。石鹸

食器や人間の表面についた油汚れは、水で洗ってもなかなか落ちません。

石鹸を使えば、汚れの周りに石鹸の成分がくっつきます。

さらに、そのくっついた石鹸の成分と水がよくなじむので、水で洗った時に油は石鹸もろとも流れ去ることができます。

逆に、普通ならくっつかないようなものでも、石鹸の成分を介してくっつけることもできます。

例えば、ネギやニラのようなユリ科植物では、水に弾きやすい性質があります。

したがって、農薬を水に混ぜて散布しても、水と一緒に弾いて薬が流れ去ってしまいます。

しかし、これに展着剤を混ぜると上述の通り、よりなじみやすくなるので、葉っぱの表面にしっかり液がくっつき、薬が葉に付着しやすくなるのです。

さらに、展着剤を用いることにより、植物が薬害を受ける危険も緩和されます。

例えば、里芋やとうもろこしなどに薬を撒くと、薬液が葉の表面を流れて真ん中に溜まる可能性があります。ハス水滴

そしてそのまま乾くと、薬液の溜まったところに多量の薬が付着することになるため、薬害が発生します。

展着剤を使えば、このような水の流れ込みを防ぐことができます。

もちろん、濃度や散布量を守った上での話ですが。

このように、特に水となじみにくい野菜には展着剤の効果は大きいです。

界面活性剤の種類

展着剤の主成分は界面活性剤と書きましたが、この界面活性剤にもいろんな種類があります。

大きく分けて以下の四つがあります。

・陰イオン性界面活性剤
・陽イオン性界面活性剤
・両性界面活性剤
・非イオン性界面活性剤

まず、陰イオン性界面活性剤は、もっとも普通に使われるものです。

石鹸とか合成洗剤、シャンプー他、多くの洗剤がこれです。

陽イオン性界面活性剤は、普通の石鹸とは逆なので逆性石鹸ともいいます。

この特徴は、殺菌効果があることです。

殺菌のメカニズムは、はっきりとはわかっていませんが、以下の通り考えられています。

微生物の表面は、マイナスに帯電するたんぱく質とかセルロースが主成分です。

そこに陽イオン性界面活性剤が近づくと、引きつけ合って表面がその界面活性剤で覆われます。

そして、それにより微生物の表面が変質し、破壊されるとされています。

両性界面活性剤は、液のpHにより陽イオン性になったり陰イオン性になったり変わるものです。

陽イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤の両方の性質を併せ持っています。

非イオン性界面活性剤は、どちらにも帯電していないため、どんな薬剤とも組み合わせやすいという利点があります。

また、表面から界面活性剤が染み込みやすいという特徴もあります。

展着剤の選び方

このように、界面活性剤により性質がかなり異なりますので、使いたい薬剤の種類に応じて展着剤も使い分けるのが望ましいです。

例えば、私はえひめAIを使っていますが、このような微生物資材にはとっては、陽イオン性や両性界面活性剤を用いた展着剤は望ましくなさそうです。

陰イオン性か非イオン性を使いたいですね。

逆に、殺菌効果をもたせたい場合は、上述の通り、陽イオン性を用いるのが良いでしょう。

農薬そのものと、展着剤による殺菌の複合的な効果が期待できます。

また、殺虫のための農薬を撒くときは、展着剤も濡れ広がりやすいものを用いることが考えられます。

展着剤は、虫の気孔を塞いで窒息死させる効果があるので、殺虫剤と混ぜると効果がさらに期待できます。

この用途には、非イオン性が良さそうです。

あと、水になじみにくい植物は展着剤の効果が高いですが、水になじみやすい植物でも展着剤の使い方次第で色々応用できます。

例えば、濃度を濃くして、その分水量を減らすことにより、作業を楽にする、

あるいは逆に濃度を薄くして農薬を節約する、

はたまた、回数を減らして作業工数を減らす等。

色々工夫して使いたいですね。

なお、他に、薬剤を混ぜる順序なども一応気にしたほうが良いです。

水→展着剤→薬剤の順がよいです。

順番を変えると、薬剤が水の中で固まる可能性もあります。

<参考にした資料>

川島和夫 展着剤の基礎と応用 養賢堂

上遠章、河田党、堀正侃編 農薬講座 第3巻 朝倉書店

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