雑草とその防除
「農業は草との戦いである」とも言わるとおり、雑草は農業生産の上で、最も重要な問題です。
日本の高温多湿な気候は、作物の生産性を高めるのには有利である反面、雑草の防除は大変になります。
これが、ヨーロッパのような冷涼な気候であればさほど雑草に悩まされません。
余談ながら、日本では雑草のような人というと、たたき上げで這い上がってきた人とか、少々のことでくじけないねばり強い人といったイメージが強いですね。
これに対して、ヨーロッパでは雑草のような人というとよいイメージは全くないらしいです。
日本の方が、雑草の害が強いのにイメージがよいというのは不思議ですね。
以前聞いた話では、これは自然災害の違いによるものだそうです。
風水害の多い日本では、雑草だろうが人間だろうが自然の猛威の前には同じ卑小な存在。
いわば仲間のようなものだから、例え嫌な雑草でも尊重できる、というのです。
雑草は強い?
こんな雑草ですが、なぜこんな風にしぶとく生き延びるのか、防除する上でも、彼らの強さの秘密を知るのは重要です。
ですが調べてみると、実は雑草は必ずしも強いという訳ではありません。
(ここで、強いというのは、他の植物からに抜きん出て成長できる能力と言う意味です)
雑草が問題になるのは、田畑とか道端とか、人間がその土地の植生を撹乱した後の土地です。
人間の手が加わっていない場所では、彼らが我が世を謳歌することもないのです。
人間が、草木をとって、何も生えていない裸地にすることによって、彼らは繁栄出来たのです。
しかし、裸地にしてしまっら、普通の草木も雑草も条件としては同じ。
そこでなぜ、雑草がはびこるのでしょう?
これには、幾つかの条件があります。
多くの雑草の種は土の中で休眠して、じっと発芽するタイミングを待っています。
そして耕耘か何かで、ちょうど良い土の深さになったり光や水分の加減になった時に発芽します。
雑草の種子は、このときの、休眠からさめて発芽するために必要な条件がたくさんあって複雑です。
従って、一斉に発芽しません。
一斉に発芽したら、その後の除草で全滅してしまいます。
チビチビ、チビチビと発芽することによって、抜いても抜いても生えてくることができます。
さらにそれだけでなく、発芽してからタネを作るまでの期間が短いのも特徴です。
普通はある程度成長しないと発芽能力を持ちませんが、多くの雑草、例えばスズメノカタビラやナズナなどはごく小さいうちからすぐに種を作ることができます。
以上は種の特徴ですが、既に生えている雑草もしぶといです。
刈られてちぎれたからと言って、必ずしも枯れてしまう訳ではありません。
タンポポやツユクサなどは、耕耘機で耕されて根や茎が切り刻まれても、そのちぎれた根や茎の節から再生できます。
つまり、切り刻むとかえって繁殖するという恐ろしいことになります。
成長できる芽が、土中深くに埋まっているものもあります。
スギナとか、地下茎が土中に張り巡らされていて、地獄の果てまで伸びているとも言われます。
どんなに耕耘しても、その下の根から再生してきます。
雑草で覆われた休耕地を耕耘したあと、この草だけ生き残っているのをよく見ます。
やはり地下茎が発達しているため、再生してきます。
このように、雑草はいずれもそれぞれの性質に応じて特徴的な生存戦略を持っています。
そして、これによって人間の攪乱に耐えることができるます。
これが、雑草の繁栄の秘密です。
我々人間も、生きていく上で参考になりますね。
防除方法は?
では、このような雑草の除去方法にはどんなものがあるのでしょう。
箇条書きにすると、
1)耕種的防除
耕したり土寄せしたりして、土を動かすことにより、除草する方法です。
2)機械的防除
刈り払い機で刈ったり、鍬をつかったりして、直接草を倒す方法です。
3)生物的防除
アイガモやカブトエビ、コイ等、生物が動き回って土を動かしたり食べさせたりすることによって草を防ぐ方法です。
4)物理的方法
火炎放射器や蒸気土壌消毒等による熱、あるいは黒のビニールマルチなどによる遮光で草を防ぐ方法です。
5)化学的防除
化学農薬を使う方法です。
と、このように多様な方法があります。
これら一つ一つについて、教科書にあるような説明をするのもつまらないので、私なりの独断と偏見に満ちた解説を試みたいと思います。
1)耕種的方法
近所のお百姓さんが、作付けしていない田んぼを雑草まみれにして荒らさないために、時々トラクターで耕しているのを見かけます。
耕した後は、当然のことながら草ひとつなく、見るからにきれいです。
しかしながら、雑草の種は表面だけでなく、土の中にも沢山潜んでいます。
これらは何年も休眠していて、発芽できる状況になるまでじっと待っています。
耕すということは、これら雑草の種のいくつかを表面近くまで浮き上がらせて、発芽するチャンスを作ってやることにもなってしまいます。
2)機械防除
では草はどう取るかというと、いったん生やしてからとるのが基本です。
種の状態では外の環境変化に強いので、少々のことでは駆除出来ません。
逆に最も弱いのが、発芽したばかりの状態なので、そこを叩くのが有効です。
そのためには、まず何も植えていない畝にかん水します。
10日くらいしたら草がポツポツ生えてきますので、そこを見計らって駆除します。
三角ホーなどで土を軽く動かしてとるのがやりやすいです。
参考までに、三角ホーとはこのようなものです。
二等辺三角形の長辺部分で表面をこするように動かすことにより、土を深くまで掘らずに表面だけ動かすことができて、便利です。
江戸時代の農業のバイブルで農業全書というのがありますが、そこで、「上農は草を見ずして草をとり中農は草を見て草をとり、下農は草を見て草をとらない」というのがありますが、上農はこういったことを知っていたのでしょうね。
とはいえ、実際は雨とか他の作業との関係でなかなか思い通りに行かないですが。
なお、育苗してから定植すると、中の土が出てくるので定植穴の回りは草が生えやすくなります。
これは栽培植物が近くにあるので、手で取らざるを得ません。
3)生物的防除
水田でアイガモ、魚、貝などを利用するのは分かりやすいですが、畑では使えません。
かわりに、微生物を利用する方法を述べます。
といっても、特定の微生物を培養して散布する、といったことではありません。
米ぬかを散布するだけです。
米ぬかの除草効果とそのメカニズムについては、必ずしも明確ではありません。
よく言われているのは、微生物が米ぬかをエサにして繁殖することにより、
1)土壌表面が酸欠状態になり、雑草が呼吸困難となる
2)微生物の生成した有機酸が、雑草にダメージを与える
ということです。
これらの効果は、あくまで土壌表面のみなので、栽培する植物がある程度まで根を深く張っていれば、少々かかっても害はありません。
私が試した際には、発芽したばかりの雑草については効果を実感できます。
ある程度大きくなったものでは、たっぷり振りかけても枯れませんでした。
米ぬかのみでは不十分で、草が生えはじめるのを若干遅らせる程度、という印象です。
4)物理的方法
黒ビニールでマルチングする方法がよく用いられます。
栽培する植物の植穴の、土が露出しているところを除けば、ほぼ完璧に雑草を抑えてくれます。
欠点はマルチを敷くのと、片付けるのが面倒なこと、マルチ資材の寿命が短く、使い回しが何回もできないこと、そのため購入費用がそれなりにかかること等です。
そこで私は、黒ビニールの代わりに新聞紙でマルチングしています(敷く手間はむしろかかりますが)。
トマトやナスのような、株間が広くて長期間育てる野菜に
ついては、新聞紙を二重に敷いて、その上に敷き藁をしています。
これでほぼ1シーズン、除草の手間がかかりません。
敷き藁は補助の遮光のためと、風で新聞紙が飛ばされないようにするため、及び強い雨で紙が破れるのを防ぐためです。
これに対して、コマツナやチンゲンサイ等の軟弱野菜は、株間が狭く、植穴の面積が相対的に大きくなります。
その代わり、栽培期間も短いです。
また、虫に食われやすいので、敷き藁をすると虫の住処を作ってやることにもなってしまいます。
そこで、これらの野菜には新聞マルチした後、不織布をかけてやります。
不織布の役割は、上述の敷き藁の役割プラス、虫の遮蔽効果です。
欠点は、やはり相当面倒なことです。
ただし、黒マルチとの比較では、片付ける手間と、マルチ資材を買う費用等を考慮して、どっこいどっこいかと思います(黒マルチより不織布の方が寿命が長いのでコスト的には有利)。
なお、最近の新聞は、ダイズを原料とするインクが使われているので、安全性についても以前よりはだいぶ高くなっていると思われます。
5)化学的防除
言わずと知れた、除草剤を使う方法です。
これに関し、以前にアンケートで除草剤に対する意識調査をさせて頂いたことがあります。
それによると、農地や市街地等で除草剤を使うことについて、
1.全く抵抗がない (2票) 8%
2.あまり気にしない (6票) 23%
3.農地では除草剤は嫌(農地以外はOK) (2票) 8%
4.どこであれ、除草剤は嫌 (9票) 35%
5.除草剤のみならず、化学薬品は全て嫌 (5票) 19%
6.その他 (2票) 18%
です。
頂いたコメントとしては、
○ 気になるが止むを得ない
○ 土に付くと分解されるタイプなら、散布の仕方が敷地外に飛散しないよう配慮されるなら、いいんじゃないか。
です。
予想外に、除草剤に対する抵抗が強かったです。
「除草剤のみならず、化学薬品は全て嫌」という選択肢はほとんどシャレのつもりでつけたのですが、多くの投票があり驚きました。
確かに、使わずに済むものならそれに越したことはないですね。
そういう訳で、除草剤を使わない化学的防除方法について述べます。
浸透圧を利用して除草する方法です。
植物は、根からチッソやリン酸等の養分を水に溶けた形で取り込みますが、これは、植物の体内の養分濃度よりも土壌中の養分濃度の方が高いため、濃度が同じになるように、高い方から低い方に養分が流れていくことによります。
では、土壌中の養分濃度がとても高いとどうなるかというと、植物の体内に養分ばかり流れてきますが、水分が入ってこなくなり、さらに濃度が高いと体内の水分が逆に土壌中に流れていき、結果としてしおれてしまいます。
従って、これを利用します。
使う肥料としては、尿素や硝安(硝酸アンモニウム)など水に溶けやすいものが適しています。
雑草が小さい時や、まんべんなく広範囲に効かせる時には、ある程度濃い濃度で、水に溶かしてかん水して散布します。
大きな雑草であれば、粉のまま直接振る方が効果が高いです。
これらの際、栽培している植物に影響が及ばないよう、十分離して散布する必要があります。
また、雨で流れてしまうと意味がないので、晴れた日に行いましょう。
ただし、アンケート結果では、化学薬品全てに対して懸念を持っている人も意外に多そうでした。
尿素、硝安もお嫌いかもしれません。
この場合、使うものは別段肥料でなく、水によく溶けるものなら何でもよいので、安全性や自分の好みを考慮して、使う材料を決めればよいと思われます。
例えば、砂糖とかクエン酸、重曹、酢などが考えられます。
このうち、砂糖は微生物の栄養源にもなるので、上述の米ぬか的な効果も期待できます。
さらに、米ぬかと違ってすぐに水に溶けて土にしみ込み、何日も粉のままでいることもないので、虫が湧いてくる危険性も少なそうです。
なかなかの優れものではないか、と思います。
ただし、個々の単価(単位モルあたり)を考えると、コスト的には尿素か重曹かと思います。
参考にした本
松中昭一 きらわれものの草の話 岩波ジュニア新書
稲垣栄洋 雑草は踏まれても諦めない 中公新書ラクレ
村岡裕由 富永達 高柳繁 森田弘彦 雑草生態学 朝倉書店
コメント